少しフシギな読書メモ

SF中心の読書記録。心の琴線に触れた文章をピックアップしていきます。

インターステラー[クリストファー・ノーラン(監督)]

本作のキャッチコピーは「必ず、帰ってくる。それは宇宙を超えた父娘の約束ー。」(公式サイトより)。おそらくSFに疎い人が考えたのではないか。

親子の絆云々はただのおまけ。「2001年宇宙の旅」や「コンタクト」に匹敵するSF映画の名作であり、個人的には今世紀最高傑作。

SFの知識がないとこの映画は十分に楽しめないだろう、と言うか意味が分からないで終わってしまうかもしれない。

しかし、SF読みには画期的な映画だ。SF小説(それもハードSF)では比較的よくある話だと思うが、それがリアルに映像化されているのだから。しかも、監督はクリストファー・ノーラン。絵のリアリティが違う。CGを一切使わずに撮られているらしい。

もう一回見に行かないと、、、


映画『インターステラー』最新予告編 - YouTube

2312 太陽系動乱(上) [キム・スタンリー・ロビンスン]

歩きの時間が過ぎた。休憩時間が過ぎた。次の一時間が過ぎた。その後の休憩が過ぎた。トンネルはいつも同じだった。三夜に一度のステーションもほとんど同じだったが、まったく同じではなかった。ふたりは変わったものを探してステーションをあさった。それぞれのステーションのエレベーターシャフトの上では、太陽にまともに照らされている水星の表面温度が、七百Kに達しようとしていた。(P228)

彼方の床からどんどんあらわれる光が、長い弧を描きながら頭上まで続いていた。そのせいで、つねに坂をくだっているような錯覚を覚えた。(P250)

水星の移動都市建設時につくられた与圧されたトンネルが直径約5000kmの水星を一周している。テロに巻き込まれたスワンとワーラムはそのトンネルを"歩いて"水星を一周することとなる。永遠と続く人工的なトンネルを歩き続ける毎日、、、久しぶりにセンス・オブ・ワンダーを喚起させられた。この感覚こそSFの醍醐味だと思う。小さい頃にドラえもんのブリキのラビリンスを見た時の感覚を思い出す。

レッド・マーズでは火星のテラフォーミングを描いた作者だが、本作はもう少し後の時代が舞台。ハードSF要素はさらに増えており、フォン・ノイマン自己複製機械による金星、火星、木星土星の衛星群のテラフォーミングが進められ、人類は広く太陽系に進出している。

西暦2312年、人類は太陽系各地で繁栄しつつも、資源格差や環境問題をめぐり対立を深めていた。そんななか、諸勢力共存の要だった水星の大政治家アレックスが急死。彼女の孫スワンは、祖母の極秘の遺言を届けに木星の衛星イオに赴く。地球を訪れたのち水星に戻ったスワンは、移動都市を襲う隕石衝突に巻きこまれる!『レッド・マーズ』の著者による3度目のネビュラ賞受賞宇宙SF。

 

2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)

2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)

 

 

希望の国のエクソダス [村上龍]

忘れちゃいけないことだって思っていても、時間がたつとどんどん薄まっていって、きっとナマムギのことだって、ああやって薄まっていくんだなと思ったら、じゃあ、薄まっていかないことなんか世の中にはないんじゃないかと思って、そういう感じで死んでいくのかなっていうか、逆に怖くなって。でも、ナマムギがいるところは遠いです。すごく遠いということが分かりました。(P51)

感動したこと、こうしようと心に決めたことでも時間が経つとどんどん薄れていってしまう。特に大人になってからは気持ちが薄れるのが早くなっている気がする。黒澤明の「生きる」のラストを想像すると恐怖すら感じる。作中の中学生たちは実際に行動に移した。そして自分たちの世界を変えていく。少しでも彼らを見習おう。気持ちだけでは何も変わらない。

この国にはなんでもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。(P314)

10年以上前の作品で村上龍が語った希望のない日本、今の日本には希望はあるのだろうか?いろいろ考えさせられる。

2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。その後、全世界の注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が始まった―。

 

希望の国のエクソダス (文春文庫)

希望の国のエクソダス (文春文庫)