少しフシギな読書メモ

SF中心の読書記録。心の琴線に触れた文章をピックアップしていきます。

2312 太陽系動乱(上) [キム・スタンリー・ロビンスン]

歩きの時間が過ぎた。休憩時間が過ぎた。次の一時間が過ぎた。その後の休憩が過ぎた。トンネルはいつも同じだった。三夜に一度のステーションもほとんど同じだったが、まったく同じではなかった。ふたりは変わったものを探してステーションをあさった。それぞれのステーションのエレベーターシャフトの上では、太陽にまともに照らされている水星の表面温度が、七百Kに達しようとしていた。(P228)

彼方の床からどんどんあらわれる光が、長い弧を描きながら頭上まで続いていた。そのせいで、つねに坂をくだっているような錯覚を覚えた。(P250)

水星の移動都市建設時につくられた与圧されたトンネルが直径約5000kmの水星を一周している。テロに巻き込まれたスワンとワーラムはそのトンネルを"歩いて"水星を一周することとなる。永遠と続く人工的なトンネルを歩き続ける毎日、、、久しぶりにセンス・オブ・ワンダーを喚起させられた。この感覚こそSFの醍醐味だと思う。小さい頃にドラえもんのブリキのラビリンスを見た時の感覚を思い出す。

レッド・マーズでは火星のテラフォーミングを描いた作者だが、本作はもう少し後の時代が舞台。ハードSF要素はさらに増えており、フォン・ノイマン自己複製機械による金星、火星、木星土星の衛星群のテラフォーミングが進められ、人類は広く太陽系に進出している。

西暦2312年、人類は太陽系各地で繁栄しつつも、資源格差や環境問題をめぐり対立を深めていた。そんななか、諸勢力共存の要だった水星の大政治家アレックスが急死。彼女の孫スワンは、祖母の極秘の遺言を届けに木星の衛星イオに赴く。地球を訪れたのち水星に戻ったスワンは、移動都市を襲う隕石衝突に巻きこまれる!『レッド・マーズ』の著者による3度目のネビュラ賞受賞宇宙SF。

 

2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)

2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)